お客さまのニーズに応えて
今から約30〜40年前、日本人の生活にはまだしっかりと着物が根付いていました。精緻な織りと深みのある独自の色を誇る大島紬の着物は、憧れの一枚。奄美と言えば大島紬といわれるほど高名になり、おしゃれを楽しむ女性たちに愛されてきたのです。
しかし、大島紬はいま、その多くがひっそりと箪笥の奥に眠っています。かつて愛された大島紬は子や孫の代に受け継がれてはいるものの、着物が生活の中から徐々に姿を消すとともに袖を通す機会も減ってしまいました。多くの方が「貴重なものなのに、もったいない」「受け継いだ大切な着物だから、何かの形で活かしたい」と思っていらっしゃるようです。
このような皆様の声にお応えするのが「大島紬里帰りプロジェクト」です。お持ちの大切な大島紬をお預かりし、「裂き織り」という技法によって新しい独自の風合いをもった生地「奄美布」によみがえらせる。そしてその生地を使い、お客さまのご希望のものをお作りしてお返しする。こうした工程を踏むことにより、眠っている大島紬はまた日々の生活の中で愛されるようになるのではないだろうか…そんなアイディアからスタートしました。
大島紬を守るために
大島紬は、非常に多くの複雑な工程を踏み、熟練の職人の技に支えられて作り上げられるものです。そして、それぞれの工程にはその技を支える道具があります。昨今の着物離れによって大島紬の生産量は大きく減っていますが、それによっていちばん問題となるのはこれらの貴重な道具が無用となり、廃棄されてしまうことです。今はもう、これらの道具そのものを作る職人たちもほとんど残っていないため、新しく道具を手に入れることすらままならないのです。
大島紬を次の世に受け継いでいくためには、職人たちに代わりの仕事を与えるだけでは足りない。今ある道具を使い、技術を活かしてできる仕事がなければ、1300年の時と奄美の人々が育んだ大島紬は消え去ってしまいます。
「大島紬里帰りプロジェクト」の背景には、このような大島紬の危機というべき事情があります。今の時代のお客さまの声にお応えし、「奄美布」によって大島紬をよみがえらせることができれば、それが同時に道具と職人を守ることにつながるのです。
私たちは大島紬を皆さまにお届けすることを生業としてきました。奄美の自然と人が育み、磨き上げてきた唯一無二の美しさを絶やさぬためにも、このプロジェクトに心血を注ぎたいと思っています。